『羆撃ち』 久保俊治著

北海道の山での狩猟を生業として選んだ著者の、獲物であるヒグマやシカとどのようにして対峙してきたかをまとめた書。生きるとは何か、命とは何か、自然の奥底に一人で挑んだ著者が思い至る境地は、都市的生活にすっかり慣れてしまった我々にとってカウンターパンチのように強烈に効いてくる。

特に印象に残っている一節。

「自然の中で生きるものの価値とは何だろう。生命とは死とは何なんだろう。そうか、死だ。自然の中で生きた者は、すべて死をもって、生きていたときの価値と意味を発揮できるのではないだろうか。キツネ、テン、ネズミに食われ、鳥についばまれ、毛までも寝穴や巣の材料にされる。ハエがたかり、ウジが湧き、他の虫にも食われ尽くし、腐って融けて土に返る。木に養分として吸われ、林となり森となる。森はまた、他の生き物を育てていく。誰も見ていないところで死ぬことで、生きていた価値と意味を発揮していく。」(p.117)

『マタギ 矛盾なき労働と食文化』(田中康弘著 2009年 枻出版社)では、自然と同化するマタギ文化と対比するかたちで、対象を倒すことを目的としたまったく異質なものとしてアメリカのハンターを例示している。本書では、アメリカに渡った著者の経験にも言及がある。前書で触れたアメリカのハンティングに対する見方は概ね誤ったものではなく、著者もビジネス化されたガイドの仕事への違和感を感じたようだ。一方で、たとえば猟の際にトランシーバを使用することが法で禁止されているなど、全部が全部ビジネス化されていると思い込んでしまうことは避けなければならないだろう。狩猟とは本来不便ななかで行われる営みであること及び猟を便利化することにより乱獲を招く、こうした理由からアメリカでは狩猟におけるトランシーバの使用が禁止されていたらしい。トランシーバは、日本のマタギにとっては欠かせないアイテムのひとつとなっている。


『羆撃ち』久保俊治著、小学館、2009年
 目次
序章 信じられぬ出来事
一章 若きハンターの誕生
二章 闇からの気配
三章 襲撃された牛舎
四章 火の女神 フチ
五章 五感の覚醒
六章 アメリカ武者修行
七章 山の魔物との遭遇
八章 永遠の別れ
あとがき