Book一覧

渡邉義浩(2011)『三国志―演義から正史、そして史実へ―』中公新書

『演義』では蜀漢を正統とするが、陳寿の『三国志』では曹魏を正統とする。陳寿は蜀漢の旧臣から西晋の史家となったため、『三国志』においては劉備こそが後漢の継承者であるという思いを仄めかしながらも、曹魏から正統に国家を譲り受けた西晋の視点、つまりは曹魏を正統とする視点とせざるを得なかった。

それぞれの視点で曹操、関羽、諸葛亮、そして三国志の時代を眺めてみると、これまで我々が想像してきた三国志とは違った世界が見えてくる。


苅米一志(2015)『日本史を学ぶための古文書・古記録訓読法』吉川弘文館

古文書解読と言えば、一文字一文字何という文字なのかを紐解いていく作業を思い浮かべるだろう。「ゟ」、「候」、「御」、「被」、「而」など独特なくずし字を最初に教わった人も多いはず。古文書辞典類もかなり充実しているし、有名な史料であれば翻刻されているものも多い。

一方で、それをどのようにして文章として読むかというと、これを学ぶ機会がなかなかない。学生時代は、先生の読み上げるのを聞いて学ぶことができた。独学では読み方を知る方法はないに等しい。なぜそう読むのかもわからない。

本書は、古文書の訓読に焦点を当てたもの、これまで見たことのない一冊である。正確な訓読ができなければ、正しい解釈もできない。正しく解釈できなければ文字を読めても文書を読めることにはならない。初学者はもちろん、学び直しの方にも必読の書である。

学生時代に出会えなかったことが悔やまれる。


小川剛生(2017)『兼好法師—徒然草に記されなかった真実』中公新書

小川剛生(2017)『兼好法師—徒然草に記されなかった真実』中公新書

吉田流卜部氏に生まれ六位蔵人から従五位下左兵衛佐に任じた、という現在定説となっている「吉田兼好」像は、偽系図・偽書に基づくファンタジーであり、史料から読み取れる兼好法師像はもっと俗っぽくて生き生きした人物である、という極めて衝撃的な内容の一冊でありながら、当時の制度や慣習を踏まえた史料解釈に基づく冷静な論の展開に、深く引き込まれます。何事も批判的な視点をもつというのは大事ですね。難しいことですが。

目次

  • はしがき
  • 第1章 兼好法師とは誰か
  • 第2章 無位無官の「四郎太郎」—鎌倉の兼好
  • 第3章 出家、土地売買、歌壇デビュー—都の兼好(1)
  • 第4章 内裏を覗く遁世者—都の兼好(2)
  • 第5章 貴顕と交わる右筆—南北朝内乱時の兼好
  • 第6章 破天荒な歌集、晩年の妄執—歌壇の兼好
  • 第7章 徒然草と「吉田兼好」
  • 参考文献
  • 年譜
  • 索引

参考


菊池俊彦(2009)『オホーツクの古代史』平凡社新書

中国の史料に登場する流鬼や夜叉。流鬼や夜叉がどこにあり、どのような人々だったのか、ということについて永年の議論があるが、本書において著者は、

流鬼はサハリンのオホーツク文化の人たちであり、夜叉はオホーツク海北岸の古コリャーク文化の人たちだった、と私は考えている。そして流鬼はニヴフ民族に相当し、夜叉はコリャーク民族に相当すると考えることができる。(p.12)

と主張し、環オホーツク海の諸民族の古代史を丁寧に解説する。

印象的だったのが、『元史』に登場する骨嵬(こつがい)についての以下の箇所。

ここで骨嵬と書かれているのは、ギリャーク(ニヴフ)民族がアイヌ民族をクギとよぶ発音の漢字表記であるから、骨嵬は明らかにアイヌ民族を指している。骨嵬という表記はその後、明朝では苦兀(くごつ)あるいは苦夷(くい)と書かれている。これはアムール河下流域のツングース民族がアイヌ民族をクイとよぶ発音に対応している。(p.169-170)

骨嵬(くぎ)→苦兀(くごつ)・苦夷(くい)、この流れで蝦夷(かい)と日本で表記されるようになったのだろうか?

目次

  • はじめに
  • 第一章 流鬼国の朝貢使節
    • 流鬼国はカムチャツカ半島か、サハリンか
    • 「北海」はバイカル湖か
    • 一万五千里の彼方にある国
    • 黒水靺鞨の領域
    • 「少海」は「小海」
    • 流鬼の使節の名前
    • 使節の長安到着
    • 「三訳」とは何か
    • 騎都尉という称号
  • 第二章 流鬼国はどこにあったのか
    • 何秋濤のカムチャツカ半島説
    • シュレーヘルの流鬼伝の翻訳
    • ロシアのカムチャツカ進出
    • 白鳥庫吉のサハリン説
    • 流鬼=アイヌ民族説
    • 唐代のギリャーク民族とアイヌ民族の居住地
    • 和田清のカムチャツカ半島説
    • 夜叉の解釈をめぐって
    • 夜叉=エスキモー民族説
    • カムチャツカ半島の考古学資料
  • 第三章 オホーツク文化の大陸起源説
    • オホーツク文化とエスキモー
    • オホーツク文化という名称
    • オホーツク文化と大陸
    • モヨロ貝塚の発掘
    • 東亜考古学会主導のモヨロ貝塚の発掘
    • オホーツク式土器の類例
    • ホロンバイルの土器
    • アリュート民族渡来説
    • オホーツク文化の人たちの大陸からの渡来説
    • 粛慎(しゅくしん)と粛慎(みしはせ)
  • 第四章 オホーツク文化と流鬼
    • サハリンの遺跡調査
    • アムール河中流域の遺跡調査
    • オホーツク海北岸の遺跡調査
    • オホーツク文化の遺跡調査
    • 大陸側の考古学資料の引用
    • エスキモー民族渡来説
    • ウリチ民族説渡来説
    • 黒水靺鞨渡来説
    • オホーツク文化の靺鞨系遺物
    • オホーツク文化=ギリャーク民族説
    • 流鬼国=サハリン=オホーツク文化
    • ホロンバイルのブルホトゥイ文化
  • 第五章 夜叉国と環オホーツク海交易
    • オホーツク海北岸の古コリャーク文化
    • 皇宋通宝の発見
    • オホーツク海北岸のトカレフ文化
    • オホーツク海北西岸の初期鉄器時代の遺跡
    • カムチャツカ半島東岸のタリヤ文化
    • 環オホーツク海の諸民族
    • アイヌ民族のサハリン進出
    • 再びオホーツク文化の人たち=粛慎説
    • 流鬼国の朝貢使節の貢物
    • 中国に運ばれたセイウチの牙
    • オホーツク文化のセイウチの牙製品
    • オホーツク海北岸のセイウチの牙
    • 夜叉国へ至る道
  • あとがき
  • 主要参考文献
  • 挿図出典一覧

その他


山口博(1979)『Ora et Labora』弘告社

山口博(1979)『Ora et Labora』弘告社

トラピスト修道院の貴重な写真集です。修道院の売店で購入しました。

“Ora et Labora”、祈れ働け。この言葉どおり、厳かで規律的な修道院での日々の祈りと生活の様子が伝わってきます。

1979年、昭和54年の発行。今から約40年前の修道院の様子です。数年前に中をご案内いただいた際の印象とほとんど変わっていないことから、日々の手入れが行き届いていることを実感します。


ルイス・フロイス著(1991)『ヨーロッパ文化と日本文化』岩波文庫

原題は、『日欧文化比較』。イエズス会の宣教師ルイス・フロイスが、天正13(1585)年に加津佐でまとめたもの。安土・桃山時代の日本の生活や文化を知るための貴重な史料となっています。

特に印象的だった点をいくつか。

ヨーロッパでは嬰児が生まれてから殺されるということは滅多に、というよりほとんど全くない。日本の女性は、育てていくことができないと思うと、みんな喉の上に足をのせて殺してしまう。(p.51)

衝撃。命の重さすら絶対的ではなく相対的なものなのか。堕胎についても「日本ではきわめて普通」との記載あり。

われわれの子供は大抵公開の演劇や演技の中でははにかむ。日本の子供は恥ずかしがらず、のびのびしていて、愛嬌がある。そして演ずるところは実に堂々としている。(p.66)

今だと逆の評価では? 日本人の子供は恥ずかしがり屋でもじもじ、一方、欧米の子供は実に堂々と自己主張する、といった風に。(注に、「武士の子弟の演ずる舞や能などを指すものと思われる」とあり。)

われわれの間では酒を飲んで前後不覚に陥ることは大きな恥辱であり、不名誉である。日本ではそれを誇りとして語り、「殿 Tono はいかがなされた。」と尋ねると、「酔払ったのだ。」と答える。(p.101)

その他、当時、ヨーロッパの風習と比較してフロイスが異様に感じた日本の文化ですが、今の日本と比べてみて異様に感じることや、昔から変わらないこと等に気付かされます。

目次

  • 解題
  • 第1章 男性の風貌と衣服に関すること
  • 第2章 女性とその風貌、風習について
  • 第3章 児童およびその風俗について
  • 第4章 坊主ならびにその風習に関すること
  • 第5章 寺院、聖像およびその宗教の信仰に関すること
  • 第6章 日本人の食事と飲酒の仕方
  • 第7章 日本人の攻撃用および防禦武器について―付戦争
  • 第8章 馬に関すること
  • 第9章 病気、医者および薬について
  • 第10章 日本人の書法、その書物、紙、インクおよび手紙について
  • 第11章 家屋、建築、庭園および果実について
  • 第12章 船とその慣習、道具について
  • 第13章 日本の劇、喜劇、舞踊、歌および楽器について
  • 第14章 前記の章でよくまとめられなかった異風で、特殊な事どもについて
  • あとがき
  • 岩波文庫あとがき(高瀬弘一郎)

宮本常一(1984)『忘れられた日本人』岩波文庫(青164-1)

著者が各地の農山漁村の老人から聴き取りしたそれぞれの地域の生活や文化の記録。
地域に暮らした普通の老人の話なのでとても生々しくダイナミックな歴史・文化に感じました。

特に男女関係の記載についてはあまりにも現在の感覚と違っていてとても興味深かったです。
司馬遼太郎の小説にも同じような場面が出てきていたのを思い出しましたが、こういう風習というか文化はおそらく本書に登場した地域に限定されるものではなくて、広い地域で行われていたのではないかと思います。

目次

  • 凡例
  • 対馬にて
  • 村の寄りあい
  • 名倉談義
  • 子供をさがす
  • 女の世間
  • 土佐源氏
  • 土佐寺川夜話
  • 梶田富五郎翁
  • 私の祖父
  • 世間師(一)
  • 世間師(二)
  • 文字をもつ伝承者(一)
  • 文字をもつ伝承者(二)
  • あとがき
  • 注(田村善次郎)
  • 解説(網野善彦)

高橋崇(1991)『蝦夷の末裔 前九年・後三年の役の実像』中公新書

前九年の役にて陸奥の安倍氏、後三年の役にて出羽の清原氏がそれぞれ滅ぶ。史料が少なく両氏の興隆の歴史に注目した研究は非常に少ない。こうした著者の問題意識に基づき、限られた史料を徹底的に精査することで、両氏の「興」と「亡」を改めて見直した一冊。

目次

  • はじめに
  • 第1章 平安時代の東北史<その1>
  • 第2章 六郡支配への道程<安倍氏の場合>
  • 第3章 山北支配への道程<清原氏の場合>
  • 第4章 前九年の役を考える
  • 第5章 平安時代の東北史<その2>
  • 第6章 後三年の役を考える
  • おわりに

 


網野善彦(2012)『歴史を考えるヒント』新潮文庫

本書は、「歴史の中の言葉」というテーマで開かれた連続講座の内容をまとめたものであり、「日本」や「百姓」、様々な商業用語、「自由」などを取り上げ、「歴史を考えるヒント」も「言葉」の中にある、というのが主題となっています。
「それが使われていたときの言葉の意味を正確にとらえながら中世の文書を読み解いていくと、予期しない世界が開けてくることがあるわけで、そこに「歴史」という学問の面白味があるとも言えるとお思います。」(p.195) との筆者のコメントがまさに本書のテーマを一言で表しているように感じました。

目次

  • 1 「日本」という国名
  • 2 列島の多様な地域
  • 3 地域名の誕生
  • 4 「普通の人々」の呼称
  • 5 誤解された「百姓」
  • 6 不自由民と職能民
  • 7 被差別民の呼称
  • 8 商業用語について
  • 9 日常用語の中から
  • 10 あとがき
  • 解説 與那覇潤

 


工藤雅樹(2001)『蝦夷の古代史』平凡社新書

「縄文」「蝦夷」「アイヌ」。言葉の定義として整理し、理解することが重要ながら、相当に難しい。実際には、これらは区分けできるものではなく、ゆっくりと溶け込むようにして今に至っている、そんなふうに感じました。

目次

  • はじめに
  • 第1部 古代蝦夷の諸段階
    • 第1章 古代蝦夷の諸段階
    • 第2章 東国人としての「エミシ」—第1段階
    • 第3章 大和の支配の外にある者としての「エミシ」—第2段階
    • 第4章 大化の改新後の世界—第3段階
    • 第5章 平安時代の蝦夷—第4段階
  • 第2部 蝦夷はアイヌか日本人か
  • あとがき
  • 参考文献
  • 年表

 


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