新潮文庫一覧

池波正太郎(1984)『男の作法』新潮文庫

この本の魅力は、目次をご覧いただければわかるはず。

食べ物にまつわる話が印象的。日々少しずつ我慢して、月に一度は本物の美味い物を食うべし。食べるという経験に投資せよ、ということと理解。

最近ネット上で飲み屋でポテトフライを頼むのがけしからん、というのを見かけたような気がするが、池波正太郎氏曰く、

冷たいビールには、熱い唐揚げのじゃがいもがいい
何にだってビールは合うんだけど、やっぱりじゃがいもなんかが合うんだね。夏はポテトフライなんかいいんですよ。(p.178)

見栄を張らずに素直に真っ直ぐ生きるのが、池波流男の作法であると感じた次第です。

目次

  • はじめに
  • 文庫版の再刊について
  • 鮨屋へ行ったときはシャリだなんて言わないで普通に「ゴハン」と言えばいいんですよ。
  • そばを食べるときに、食べにくかったら、まず真ん中から取っていけばいい。そうすればうまくどんどん取れるんだよ。
  • てんぷら屋に行くときは腹をすかして行って、親の敵にでも会ったように揚げるそばからかぶりつくようにして食べなきゃ。
  • たまにはうんといい肉でぜいたくなことをやってみないと、本当のすきやきのおいしさとか、肉のうま味というのが味わえない。
  • おこうこぐらいで酒飲んでね、焼き上がりをゆっくりと待つのがうまいわけですよ、うなぎが。
  • コップに三分の一くらい注いで、飲んじゃ入れ、飲んじゃ入れして飲むのが、ビールの本当にうまい飲み方なんですよ。

参考

※表紙の絵も著者によるものらしいが、Stevie Ray Vaughanの帽子のようでこれまた格好いいのです。


大岡昇平『野火』新潮文庫

フィリピンにおいて敗走を続ける日本兵。疲労と飢えの中、極限状態における人肉食への誘惑と葛藤が描かれる。人肉食という極めて衝撃的な出来事にも関わらず、全体を通じて一歩引いたような無感情な淡々とした空気が流れている。不思議な感覚。

読みが浅いと言われればそれまでながら、人肉食という部分だけがとかく注目されがちな本作、実はもっと違うことを伝えたかったのではないか、と感じるくらい、人肉食との葛藤の部分はごく一部で、戦地において病を持った兵士の扱われ方、兵士の命の扱われ方、戦地での人の命などが主題なのではなかったかと朧気に感じた次第。

とかく普遍と思われる命の重さが、時代、場所、状況等による相対的なものであることをあらためて実感させられた。


遠藤周作『沈黙』新潮文庫

弾圧や迫害に際しても神はただひたすら沈黙する。この神の沈黙が、信徒の信仰心を試す物差しであるならば、神というのは何と無慈悲なものなのか。主人公ロドリゴの葛藤に共感を覚える作品。

ロドリゴの師フェレイラ曰く、

「日本人は人間とは全く隔絶した神を考える能力をもっていない。日本人は人間を超えた存在を考える力を持っていない」
(略)
「日本人は人間を美化したり拡張したものを神とよぶ。人間と同じ存在をもつものを神とよぶ。だがそれは教会の神ではない」
(略)
「私にはだから、布教の意味はなくなっていった。たずさえてきた苗はこの日本とよぶ沼地でいつの間にか音も腐っていった。私はながい間、それに気づきもせず知りもしなかった」

古代律令制度も中国から輸入したものを自分たちに合うように変質させた日本。仏教だって同じ。いはんやキリスト教をや。フェレイラに「沼地」と代弁させた性質こそ、まさに日本文化の本質なのではないかと強く感じた次第です。

本の概要は、新潮社のページが参考となります。

新潮社>神様って、いないんじゃない? という疑問を、ここまで考えぬいた人達がいる。(2017-07-08(Sat) 23:05:16アクセス)

マーティン・スコセッシ監督の映画「沈黙―サイレンス―」、ブルーレイで出るみたいです。


深沢七郎(1964)『楢山節考』新潮文庫

深沢七郎の代表作。いわゆる姥捨て山の話だが、自ら山に入ることを望む主人公おりんの視点で書かれている。生きたまま山に入るというのは相当な悲劇なのに、おりんの姿や言動には悲壮感がまったくなく、むしろ生き生きとしながら山に向かっていく。これが逆に生々しい。まさに名作。


網野善彦(2012)『歴史を考えるヒント』新潮文庫

本書は、「歴史の中の言葉」というテーマで開かれた連続講座の内容をまとめたものであり、「日本」や「百姓」、様々な商業用語、「自由」などを取り上げ、「歴史を考えるヒント」も「言葉」の中にある、というのが主題となっています。
「それが使われていたときの言葉の意味を正確にとらえながら中世の文書を読み解いていくと、予期しない世界が開けてくることがあるわけで、そこに「歴史」という学問の面白味があるとも言えるとお思います。」(p.195) との筆者のコメントがまさに本書のテーマを一言で表しているように感じました。

目次

  • 1 「日本」という国名
  • 2 列島の多様な地域
  • 3 地域名の誕生
  • 4 「普通の人々」の呼称
  • 5 誤解された「百姓」
  • 6 不自由民と職能民
  • 7 被差別民の呼称
  • 8 商業用語について
  • 9 日常用語の中から
  • 10 あとがき
  • 解説 與那覇潤

 





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